説教じみたはなし [黒ミッソ]
ミッソ「ご隠居、こんにちわ~!」
ご隠居「おや?ミッソ何の用だい?」
ミッソ「用?用なんてないだよ。」
ご隠居「用もないのに来たのかい?」
ミッソ「用がないからきただ。
用があったら、こんなとこにこねぇだわ。」
ご隠居「・・・・・。
まぁ、いい。私もちょうど退屈していたところだ。
お茶でも飲んでいきなさい。」
ミッソ「お茶菓子はようかんがいいだ。」
ご隠居「・・・・・。まあいいだろう。
ばあさん!ミッソにお茶とようかんをだしてやっとくれ!」
ミッソ「ご隠居んとこのお茶はいつもぬるいだわ。」
ご隠居「・・・・・。ま、まあいいだろう。
本当にいいお茶というのは冷ました湯で淹れるもの。
色を見、香りを嗅ぎ、味わって飲んでみなさい。」
ミッソ「ん~。変わった色だわ。おでのいつも飲んでるお茶は茶色だのに、
こではカビみてな色だで、ご隠居。」
ご隠居「お前がいつも飲んでいるのは、ほうじ茶だ。
その茶は緑茶といって焙じる前の新鮮な茶葉を使った高級な茶だ。」
ミッソ「ふ~ん。
・・・・・・おでの口にはあわないだ。」
ご隠居「・・・・・・。ま、ま、まあいいだろう。
さ、ようかんを食べなさい。」
ミッソ「甘さが足りないだわ。
おでがいつも食べてるやつは
もっとあごが痛くなるくらい甘くて、んまいで、
ご隠居は毎日こんなにまずいようかんを食べてるだね、かわいそうに。」
ご隠居「・・・・・・。
お前が食べているのは、水飴を入れてごまかしたもの。
本当のようかんというのは甘すぎず、小豆の味がするものなのだよ。」
ミッソ「ふ~ん、でもおではいつものやつがいいだわ。
こではまずいだ。」
ご隠居「・・・・・・。お前が正直なところ、私は好きだがね、」
ミッソ「おでが掃除機?
おではゴミは吸い込めないだよ。」
ご隠居「・・・・・・。
正直というのはウソ偽りがないということだ。」
ミッソ「ぶっほ、やっぱり、このお茶まずいだわ。」
ご隠居「ミッソ、話を聞きなさい。
お前は大変に正直だけれども、それは時に人を傷つける。
言葉には慎重にならなくてはいけない。」
ミッソ「またまた、ご隠居、物騒な。
人を傷つけるなんて、おではそんな乱暴モノじゃねだよ。
黒ミッソじゃあるまいし。」
ご隠居「傷つけるといってもいろいろある。
怪我をさせるのもそうだがね、
言葉で人を傷つけることもある。」
ミッソ「ことばで!ことばが武器になるとは知らなかっただ!
とおっ!てりゃ!ばきっ!」
ご隠居「何やってるんだい、ミッソ。」
ミッソ「おでのことばでご隠居をやってつけてみようと思って、
う~や~た~~~~!!」
ご隠居「そういうことではない。
言葉で傷つくのは心だ。」
ミッソ「へ~。心ね~。
ねぇ、ご隠居、ようかん、まずくて全部食べられないわ。」
黒ミッソ「おいおいおいおいおいおい!
ミッソ!
ご隠居の話をちゃんと聞け!」
(黒ミッソ、ミッソの襟首をつかんでご隠居の前に座らせる)
黒ミッソ「ご隠居、どうぞ話の続きを!」
ご隠居「・・・・・え?、あ、あ、ああ、
心の傷は癒えにくい。
しかし、傷つけたほうは痛くないので気がつかない。
だがね、相手の気持ちを思いやる心があれば
傷つけたほうが痛いはず。」
(黒ミッソ、大きくうなずきながら真剣に聞いている。)
ミッソ「ね~、ご隠居、お茶をもういっぱ・・・・・」
バキッ!!黒ミッソチョップ!
黒ミッソ「ミッソ!ご隠居の話をまじめに聞きやがれ!
ご隠居、どうぞ話の続きを!」
ご隠居「・・・・・え?、あ、あ、ああ、
言葉で人を傷つけないためにどうしたらよいか。
・・・・・それはなかなか難しい。
これだけ長生きをした私にも、実はわからないのだよ。」
黒ミッソ「は、はぁ?
じじい!100年も生きてるくせにわからねぇって?」
ご隠居「はっはっは。私は100歳ではないがね、
この歳になって一つだけわかったことがある。
人を傷つけずに生きるのは無理だ、ということだ。
たが、人を傷つけないように努力する、
それが情というもの、なのではないかな?」
(黒ミッソ、ご隠居の話に感動している。)
ミッソ「ご隠居、おで、無理して食べてわかっただよ。
このようかんはんまいだね!
おでがいつも食べてるやつとは違う味だけど、
これも、んまいだ!
ご隠居、このようかん、黒ミッソにもあげて。」
黒ミッソ「ミッソ、優しい言葉が使えるようになったじゃねぇか(涙)
ご隠居のありがたい話のおかげだぜ。」
ご隠居「はいはい、黒ミッソにもあげましょう。
どうぞ黒ミッソ、召し上がれ。」
(黒ミッソ、涙をぬぐい、黙ってようかんを食べる。)
ミッソ「じゃ、ご隠居、おで達は帰るだよ。
ごちそうさま。
黒ミッソ、帰るで。」
(ミッソ、黒ミッソをつれて帰る。)
ミッソ「ご隠居のようかん、まずかったな、黒ミッソ。」
(黒ミッソ、黙ってうなずく。)
おわり。