常識を知ったはなし [酔っ払い]
「アタシ、毛布って生まれてから今までに一度しか買い換えてないの。」
いつもの飲み会。
いつもの4人で飲んでいたら、ひとりがこんなことを言った。
汚い話だ。
生まれてから今までって、彼女は40そこそこなので、
イチ毛布あたり、20年以上使っているということになる。
「しかも、アタシの毛布はめったに洗わないの。」
こんなことも言う。
汚いオンナだ。
「自分のにおいが染みこんだ、毛布ちゃんがないと眠れないの。」
かわいこぶって「毛布ちゃん」と言うが、毛布ちゃんがはなつ悪臭を想像してうげっとなった。
汚い毛布ちゃんだ。
汚い、汚い、ああ汚い、とビールをごくごくやっていると、別の友達がいう。
「わかる~。」
だよね、と言いそうになって「はあ?」となった。
え、わかるの?
びっくりしていると、もうひとりが言う。
「アタシはね、毛布じゃなくてタオルケット。
洗っちゃうと、だめなんだよね~。」
「だよね~。」
意気投合している。
長年つきあってきたが、こんなに汚い人たちだったとは知らなかった。
汚ねえ、汚ねえ、ああ、汚ねえ。
「ミッソはないの?そういうの。」
ねえよ。
「ライナスの毛布」っての?幼児性愛着性ってやつだね、そでは。
でも、キミらは幼児じゃないで。
「ミッソ、今、自分だけがまともだと思ってるでしょ。」
友の顔が怖い。
悪いときの顔をしている。
「今、この場で、異常なのはミッソだからね。」
えっ。
「4人中3人がそうだって言ってるんだから、アタシらがまとも。
ヘンなのはミッソのほうだよ。」
が~ん!
なるほど、常識というのはそういうことなのか!
昨夜は友人のこの言葉にめちゃめちゃ感動したのだけれど、
酔いがさめて冷静になったら、うまく丸め込まれただけのような気がしないでもない。
頭いいなぁ、と尊敬の熱いまなざしで見つめてしまったけれど、
それほど頭よくないかもしれないと、尊敬を撤回したいような気がしないでもない。
ただ、「酔うと騙されやすくなる」という自分の性質を教えてくれた、友人には感謝しなくては。
さんきゅう。
(おしまい)